空き家に関する税制の改正について解説
日本全国で深刻化する空き家問題。高齢化と人口減少が進む中、管理されない空き家は防犯上のリスクとなり、街の景観を損ねるなど、地域社会に様々な影響を及ぼしています。
この課題に対し、政府は税制面からの対策を強化しています。令和5年度の税制改正では、空き家の売却を促進するための3,000万円特別控除制度が見直され、活用しやすい内容へと変更されました。
本記事では、この改正の内容と特例の活用方法について詳しく解説します。
目次
空き家の発生を抑止するための特例措置とは
住宅事情は大きな転換点を迎えています。相続で取得した古い家屋が空き家となるケースが年々増加し、その対策が急務となっています。そこで注目されているのが、平成28年度に創設された「相続空き家の3,000万円特別控除」制度です。これは、相続物件の早期売却を促すため、売却時の譲渡所得から最大3,000万円を控除できる仕組みです。
この制度には、もう一つの側面もあります。適切な管理がなされない空き家は「特定空家等」として指定され、固定資産税が最大6倍に引き上げられる可能性があるのです。つまり、この制度は空き家の適切な管理を促す「アメとムチ」の役割を担っています。
さらに令和5年度の改正では、耐震リフォームや除却の要件が緩和され、相続人の負担が軽減されました。これにより、より多くの方が制度を活用しやすくなっています。
令和5年度の税制改正の内容
令和5年度の税制改正により、空き家の譲渡所得に係る3,000万円特別控除の特例が大幅に見直されました。
適用期限の延長や要件の緩和により、相続した空き家の売却がより行いやすくなっています。一方で、相続人が3人以上の場合は控除額が減額されるなど、留意すべき変更点もあります。今回の改正のポイントを詳しく見ていきましょう。
①特例の適用期限が延長された
空き家の譲渡特例は、当初平成28年4月1日から令和5年12月31日までの期間限定で実施される予定でした。しかし、空き家問題が依然として深刻な社会課題であることから、適用期限が4年間延長されることになりました。
新制度の期限は令和9年12月31日までとなり、相続人は余裕を持って譲渡を検討することができます。特に、人口減少や過疎化が進む地域での空き家対策として、この延長措置は重要な意味を持っています。
②耐震リフォーム・除去要件が緩和された
これまでは、相続人が売却前に耐震リフォームや家屋の解体を実施する必要がありましたが、この要件が大幅に緩和されました。改正後は、売却後に購入者が耐震リフォームや除却を行うことでも特例を適用できるようになります。
新制度では、物件を購入した方が耐震改修や解体を実施するケースでも、特例の適用が可能となりました。購入者が譲渡日から翌年2月15日までに工事を終えれば、相続人は特例を利用できます。
③相続人が3名以上いる場合は特別控除額が減額された
令和6年1月1日以降、相続人の人数が3人以上の空き家の譲渡については、控除額の見直しが実施されました。新制度では、相続人1人あたりの控除額上限が従来の3,000万円から2,000万円へと変更されています。
具体的な例で見てみると、相続人が3人の物件では、これまでなら最大9,000万円(3,000万円×3人)の控除を受けることができましたが、改正後は6,000万円(2,000万円×3人)が上限となります。
そのため、相続人が3人以上いる場合は、令和5年内の売却を検討することで、より有利な税制メリットを享受できる可能性があります。早めの判断と対応が求められる改正点と言えるでしょう。
3,000万円特別控除の適用要件
空き家の譲渡所得に係る3,000万円特別控除を受けるためには、いくつかの要件を満たす必要があります。この特例は、相続した空き家を適切に処分し、地域の空き家問題の解決を促進することを目的としています。以下で具体的な適用要件を解説していきます。
まず、対象となる物件は昭和56年5月31日以前に建築された家屋に限定されます。これは、旧耐震基準で建てられた建物を対象とすることで、耐震性の低い空き家の解消を図るためです。
次に、被相続人が亡くなった時点で一人暮らしであったことが条件となります。被相続人以外の人が同居していた場合は、この特例を利用することができません。ただし、被相続人が介護施設等に入所していた場合は、一定の要件を満たせば特例の対象となります。
物件の用途についても制限があります。相続開始から売却までの期間中、事業用や賃貸用として使用されていないことが必要です。また、売却価格は1億円以下という上限が設けられています。
さらに、相続開始から3年以内に売却することが求められます。この期間を超えると特例を適用することができなくなるため、相続人は早めの対応を検討する必要があります。
3,000万円特別控除を受けられるその他の特例
空き家の譲渡所得に係る3,000万円特別控除は、様々なケースで適用可能です。相続した物件を売却する場合や、賃貸に出していた物件、店舗併用住宅など、それぞれの状況に応じて特例を活用できる場合があります。ただし、各ケースで適用条件が異なるため、事前の確認が重要となります。
相続された物件を売却する場合、被相続人が生前にマイホームとして居住していたことが要件となります。また、古い耐震基準で建てられた場合は、令和5年度の改正により、購入者側が耐震改修を行うことでも特例を適用できるようになりました。
賃貸物件として利用していた場合でも、住まなくなってから3年以内の売却であれば特例の対象となる可能性があります。ただし、賃貸期間中はマイホームとみなされないため、適用には注意が必要です。
店舗併用住宅の場合、居住部分のみが控除対象となります。ただし、建物全体の90%以上が居住用であれば、建物全体の売却額に対して控除が適用できます。
共同名義の物件では、各所有者がそれぞれ控除の対象となります。ただし、持分に応じた控除額となるため、所有権の割合を確認する必要があります。
マイホームを取り壊して敷地のみを売却する場合も、解体から1年以内の売却で、その間に賃貸等の収益を得ていないことが条件で、控除が適用できます。
3,000万円特別控除の申請方法
相続した空き家を売却し、3,000万円特別控除を適用するには、確定申告の手続きが必要となります。この手続きは個人で行うことも可能ですが、書類の準備や期限の管理など、いくつかの重要なポイントがあります。
申請をスムーズに進めるためには、必要書類をもれなく準備し、申告期限に余裕を持って対応することが大切です。税務署での相談も可能ですが、混雑が予想されるため、早めの準備をお勧めします。以下で具体的な手続きの内容をご説明します。
必要書類
特例の適用には以下の書類が必要となります。事前に揃えておくことで、スムーズな申告が可能です。
- 売却物件の登記事項証明書
- 住民票の除票(被相続人の居住実態を証明)
- 確定申告書B
- 譲渡所得の内訳書
- 売買契約書(購入時・売却時)
- 必要経費の領収書
- 被相続人居住用家屋等確認書(市区町村発行)
申請期間
3,000万円特別控除の申請は、売却した翌年の確定申告期間に行います。具体的には、2月16日から3月15日までが申告期間となります。
e-Taxを利用すれば、自宅からオンラインで申請することも可能です。ただし、申告会場は期間中大変混雑するため、早めの申請をお勧めします。
空き家の税制改正と今後の活用について
令和5年度の税制改正により、空き家の譲渡所得に係る3,000万円特別控除制度は大きく見直され、より利用しやすい制度となりました。
適用期限は令和9年12月31日まで延長され、耐震リフォームや除却要件も緩和されています。ただし、相続人が3人以上の場合は控除額が減額されるなど、新たな留意点もあります。
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空き家問題は今後も社会的な課題となっていきます。税制優遇措置の活用と併せて、専門家への相談を通じて適切な対策を講じることをお勧めします。
この記事の監修者
寺澤 正博
高等学校を卒業後、東京トヨペットに3年間勤務。その後、「お客様の気持ちに寄り添った工事をしたい」という思いから独立をし、1989年にサワ建工株式会社を設立。空き家事業だけではなく、新築工事やリフォーム、不動産業など、人が安心して暮らせる「住」を専門に約30年間、東京・埼玉・千葉を中心に地域に根付いたサービスを展開している。東京都の空き家問題に本格的に取り組むべく、2021年から「あき家ZERO」事業を開始。空き家を何とかしたい、活用したいと考えている人へサービスを提供している。