空き家の固定資産税が6倍になる理由と軽減措置を継続する方法
空き家とは、国土交通省の定義によれば「建築物または建築物に附属する工作物であり、居住やその他の使用が常態的にないもの」を指します。建物だけではなく、その建物がある敷地自体も含めて定義されており、空き家として所有するだけでも税金がかかります。
この記事では、空き家にかかる税金について、相続・売却・所有それぞれのケースと、固定資産税の注意点を紹介します。空き家を所有している方や、活用・処分について検討中の方は、ぜひ参考にしてください。
目次
空き家にも税金がかかる?
空き家は、建物や敷地として所有しているあいだは税金として固定資産税がかかります。また、課税以外にも所有者自身が空き家を適切に管理する必要があり、2015年には「空家等対策の推進に関する特別措置法」が施行されました。
空き家法と呼ばれるこの法律では「適切な管理の努力義務」が定められていましたが、国や地方自治体も空き家問題に対処すべきとして、2023年に改正空き家法(空家等対策の推進に関する特別措置法の一部を改正する法律)が施行されました。
改正空き家法では、「管理不全空き家」という新たな枠組みが設けられています。倒壊などのおそれが高い特定空き家の前段階として設けられた区分で、管理不全空き家に指定されると固定資産税や都市計画税の軽減措置が受けられなくなるおそれがあります。
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相続した場合
空き家を相続した場合、元の所有者に代わって新たな相続人が固定資産税の支払い義務を引き継ぎます。空き家の所有者が亡くなったとしても、相続している場合は固定資産税の支払い義務そのものが消失することはありません。
※相続の権利をもちながら誰も相続を行わない場合は、家庭裁判所に申し立てを行って「相続財産管理人」を選任する必要があります。
売却した場合
空き家を所有せず売却したときは、その利益に対して税金がかかります。この場合にかかる税金は譲渡所得税と住民税の2つです(2037年までは各年分の基準所得税額の2.1%の復興特別所得税も加算)。
ただし、空き家を所有していた期間が5年未満か5年以上かによって譲渡所得税の税率が異なります。5年を超えて所有していた不動産の売却には課税所得税率15%・住民税率は5%、所有期間が5年未満の不動産の売却には譲渡所得税率30%・住民税率は9%です。
※家族から相続した家の売却では、家族が所有していた期間も含まれます。
所有しつづけた場合
空き家を所有し続ける場合は、住まいなどと同じく固定資産税・都市計画税がかかります。
空き家の状態によっては「管理不全空き家」または「特定空き家」に指定されるおそれがあるため、環境や近隣へのリスクが発生しないように管理しなければなりません(管理不全空き家については後述の「空き家にかかる固定資産税が6倍になる条件」で詳しく解説します)。
空き家には固定資産税はいくらかかる?
空き家にかかる税額は、空き家のある市区町村が税額を計算し、所有者に納税額を通知します。所有者自身で計算して申告する必要はありません。
固定資産税の求め方は、3年ごとに評価替えを行う「固定資産税評価額」に標準税率1.4%をかけあわせます。都市計画税は固定資産税評価額に制限税率0.3%をかけあわせて算出します。土地については住宅用地の特例として、固定資産税6分の1・都市計画税3分の1に軽減されています。
土地の固定資産税評価額が1,200万円であり、家屋の固定資産税評価額が800万円の不動産にかかる税額は以下のとおりです。
【固定資産税評価額が土地1,200万円・家屋800万円の場合の課税額】
一般の住宅・空き家 | 土地:1,200万円×1.4%×1/6+1,200万円×0.3%×1/3=円
2.8万円+1.2万円=4万円 建物:800万円×1.4%=11.2 万円 【合計】15.2万円 |
軽減措置の計算方法
これらの固定資産税・都市計画税ですが、「固定資産税等の住宅用地特例」という制度により、税金が安くなります。
「住宅用地特例」の条件は「住宅が建っていること」ですので、空き家もこの軽減措置の対象となります。いくら程の税金になるのでしょうか。
計算方法は次のとおりです。
固定資産税
・小規模住宅用地(住宅やアパート等の敷地で200平方メートル以下の部分):特例率は1/6
【計算方法】
固定資産税評価額×1/6(特例率)×1.4%(税率)
・一般住宅用地(住宅やアパート等の敷地で200平方メートルを超える部分):特例率は1/3
【計算方法】
固定資産税評価額×1/3(特例率)×1.4%(税率)
都市計画税
・小規模住宅用地(住宅やアパート等の敷地で200平方メートル以下の部分):特例率は1/3
【計算方法】
固定資産税評価額×1/3(特例率)×0.3%(税率)
・一般住宅用地(住宅やアパート等の敷地で200平方メートルを超える部分):特例率は2/3
【計算方法】
固定資産税評価額×2/3(特例率)×0.3%(税率)
特例率は住宅用地だからこその減税です。
なお、これは空き家が「特定空き家」に指定されていない場合の税率となります。
空き家にかかる固定資産税が6倍になる条件
空き家として所有しながら、その空き家が「管理不全空き家」「特定空き家」に指定された場合は、固定資産税や都市計画税の軽減措置が外されます。
このうち、特定空き家は倒壊やその他のリスクを伴う空き家のことであり、具体的には以下のようなケースを指します。
【特定空き家の定義】
- 放置すると著しく保安上危険となるおそれのある状態
- 著しく衛生上有害となるおそれのある状態
- 適切に管理が行われていないことにより著しく景観を残っている状態
老朽化が著しく手入れもされていない空き家は、地震などの災害時に倒壊を起こしたり、害虫や害獣の発生源になったりと、さまざまなリスクが考えられます。
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住宅用地の特例が適用外になる
2015年に施行された空き家法では、地域住民の生活を保全するため、「特定空き家」という区分を設けてきました。2023年12月からは新たに「管理不全空き家」の区分が設けられ、空き家の状態に応じて3つの段階に分けられました。
管理不全空き家・特定空き家に指定されると、従来の空き家に適用されている「住宅用地の特例」が適用外になり、固定資産税が指定された翌年から最大6倍に引き上げられます。
6倍になるタイミング
固定資産税が従来の税率として6倍になるタイミングは、その土地に住宅用の建物がなくなった場合です。
具体的には以下のケースが該当します。
【固定資産税が6倍になるタイミング】
- 管理不全空き家に指定される
- 住宅を取り壊して更地にする
- 住宅があった場所を駐車場にする
- 空き家を住宅以外の用途に使う
空き家を維持管理していても、居住用の建物として使っていなければ住宅用地特例の対象外となります。
空き家は解体しない方が税制的にお得なのか
上記でも記載したように、固定資産税が6倍になるタイミングは、その土地に住宅用の建物がなくなった場合です。
では、税制的に解体しない方がお得なのでは?と思うのではないでしょうか。
空き家でも解体せずに残したほうが得になるとよく言われます。
その理由は、住宅用地特例による固定資産税の減額です。
住宅が建っている土地には固定資産税が少なくなる制度があり、建物を解体すると固定資産税が最大で6倍、都市計画税が最大3倍になると言われています。
したがって、建物を残しておけば税制上のメリットを受けられるように見えます。
しかし、空き家を放置すると「特定空家」に認定され、住宅用地特例が適用されなくなる可能性が高いです。特定空家に認定されると、50万円以下の過料や建物解体の行政代執行費用を請求されるなどのペナルティも生じます。
特定空家に認定されないようにするためには、定期的な管理を行うことや、電気・水道・ガスなどの生活インフラの契約を維持することが重要です。空き家の解体には多額の費用がかかるため、税負担との比較を行い、どちらが得になるかを計算して選択することが必要です。
空き家を所有するデメリット
具体的には下記のようなデメリットがあります。
固定資産税が高くなる
空き家が「特定空き家」に認定されると、その土地に対する固定資産税の軽減特例が適用されなくなります。
その結果、土地部分の固定資産税が大幅に上昇してしまいます。
建物の劣化
空き家のように人が出入りしない建物は換気が不足しやすく、その結果、劣化が早く進行します。
環境によっては、数年の放置でまるで10年以上経過したかのように劣化してしまうこともあります。
防犯
家屋が空き家のまま放置されると、犯罪に利用される恐れがあります。
たとえ空き家自体が直接犯罪に使われなくても、不法投棄などが発生し、地域の治安を悪化させる原因となる可能性があります。
景観悪化
放置されて荒廃した空き家があると、周囲の景観が大きく損なわれます。
その結果、周辺住民から苦情が寄せられたり、自治体から注意を受けたりすることがあります。
特定空き家に指定されると固定資産税はいつから上がるのか
特定空家の指定は季節に関係なく行われますが、指定されたからといって直ちに固定資産税や都市計画税が上がるわけではありません。
これらの税金は毎年1月1日を基準日として計算されるためです。つまり、特定空家に指定されても、年内に状況を改善すれば住宅用地の特例を引き続き受けることができます。
しかし、対処が遅れて特定空家の解除が1月2日以降になった場合、その年の固定資産税と都市計画税には住宅用地の特例が適用されないので注意が必要です。
空き家にかかる固定資産税が6倍になるまでの流れ
空き家にかかる固定資産税が6倍になるケースのうち、管理不全空き家に指定された場合の流れは以下のとおりです。
【管理不全空き家に指定され固定資産税が6倍になるまでの流れ】
- 助言・指導
- 勧告
- 命令
- 行政代執行
空き家が発生し、倒壊やその他のリスクがあると判断された際に、行政側から助言・指導が入ります。
そのアドバイスに従わなければ勧告となり、勧告を十分に聞き入れなければ命令へ移り、命令にも従わない場合は行政代執行となります。
関連記事:放置空き家の割合・放置に潜むリスクと有効活用のための解決策
空き家の固定資産税が6倍になるのを防ぐ方法
空き家の固定資産税や都市計画税の軽減措置が適用外にならないためには、「売却する」「行政からの指示を改善する」「更地にして売却や貸し出しを行う」「親族に居住してもらう」という方法が選択肢となります。
それぞれの選択肢について確認していきましょう。
関連記事:空き家の解体に補助金が使える?その理由と条件について解説
方法①近隣に合わせた適切な管理をする
今はまだ、近所から文句が出るほど荒れてはいないけど、この先どのくらいの管理ができてればいいのか、というのはわかりにくいですよね。このような時は、近隣の家や周辺の環境がどのような状態になっているかをめやすに管理をすると良いと言えます。
例えば、庭の落ち葉の状態、ブロック塀や庭木の状態、チラシなどのポストの状態やゴミの状態などに注意してください。粗いながらも、人の出入りがある家と同じような状態を維持できていれば、「エリア住環境に影響がある」ようなことにはなりにくいと言えます。
一般的な感覚として、人が住んでいる家の窓ガラスや扉は、壊れているままにはしません。空き家がそのような状態になっていたら修理修繕をしておく必要があります。
ゴミに関しては、家を空けることが分かった時点で、家の中にある生ごみなどを可燃物の日に出しておけば、あとは、管理に来た時に少しずつ出していくのでも、十分に間に合います。
ただし、これらはあくまで外観上の管理ですので、家の中は、定期的に換気をして湿気を取り除くなど、季節に合った管理をしておく必要があります。
方法②自分から自治体に相談しに行く
自分では適切に管理しているつもりでも、不安が残ることがあります。そのような場合は、自治体に管理方法について相談することをおすすめします。
自治体に電話をして相談を依頼すれば、担当者が窓口で対応してくれます。
※多くの自治体ではメールでの受付を行っていません。詳細は自治体のホームページの「生活課」または空き家に関する情報をご確認ください。
自治体は良好な住環境の保全のために空き家対策を行っており、空き家の管理方法について相談する方は「環境保全に協力的な人物」として評価されます。
このような方には、行政も積極的にアドバイスを行ってくれます。
また、自治体によっては空き家の活用事業や、自営業者向けの連携サービスなども提供しています。自身で管理するだけでなく、定期的に利用してもらうことで代わりに管理をしてもらうなど、空き家問題の解決策を提案してもらえることもあります。
自分でインターネットなどを使って調べることもできますが、地域の問題を同時に解決できる、より適切な空き家活用方法を提案してもらうためにも、自治体に相談することを強くおすすめします。
空き家の老朽化が進んで状態が良くない場合でも、自ら改善のために行動を起こす方に対して、行政は厳しく対応しません。
空き家対策は国策レベルの問題ですので、積極的に相談・協力することで、空き家管理の負担が軽減されやすくなります。
参考URL:建設産業・不動産業:空き家・空き地バンク総合情報ページ – 国土交通省
方法③不動産管理会社に管理を依頼する
空き家が遠方にある場合や、近隣であっても忙しくて管理の時間が取れない場合には、不動産管理会社に管理を委託することをおすすめします。
一般的に、不動産管理会社の担当者は月に1度、敷地内に入り40~60分程度の見回りと軽度の作業を行います。
例えば、空気の入れ替え、水道を使用した給排水管の管理、目立つ雑草や落ち葉の清掃、ゴミの処理などです。
また、空き巣や放火が心配な場合には、スマホで監視できる簡易なカメラの設置も検討してみてください。近隣エリアの不動産管理会社に依頼すれば、管理を任せることができるため、自身が頻繁に通う必要がなくなります。
方法④売却する
活用の見込みや予定がなければ、土地とともに売却が検討できます。不動産会社や空き家バンクを活用し、次の所有者を募集します。
不動産会社では、所有者に代わって販売活動を行い、売却の際にも仲介をしてくれます。各自治体では空き家バンクを開設しており、買い手とのマッチングを行っています。いずれも売却をサポートするサービスのため、活用を検討してみてはいかがでしょうか。
方法⑤行政からの指示内容を改善する
管理不全空き家に指定された空き家は、行政による調査によって「特定空き家」と判断された場合に、助言→勧告→命令→代執行の流れに沿って取り扱われます。
助言や勧告の段階は、まだ代執行には至らない管理不全の状態です。そこで行政から空き家に関する改善点を指示されるため、その内容にしたがって対策を行うことで、改善が行われたと認められ、住宅用地の特例が引き続き適用になります。
ただし、指示内容に従わなければ勧告から命令へと移行するため、指定された期日までに対処しなければなりません。
方法⑥更地にして売却・貸し出す
空き家の修繕や建て直しが難しい場合は、更地にしたうえで土地を貸し出すか、売却する方法を選択できます。ただし土地だけにすると、住居が存在しなくなるため「住宅用地の特例」が適用外となり、固定資産税や都市計画税が通常の課税額になります。
それでも、更地にすることで新たな買い手や利用者と出会える可能性はあります。居住以外の用途で買い手がつく可能性もありますので、土地活用を早めに検討していきましょう。
方法⑦親族が居住する
空き家が居住できる状態であれば、親族に住んでもらう方法も選べます。無償で住まわせる方法のほかにも、賃貸物件として貸し出しを行う方法も可能です。
無償または定額での貸し出しは贈与税の対象となり、家賃の決め方や修繕の際の負担割合に関してトラブルが起こらないように注意が必要です。
空き家の固定資産税を払わないとどうなるのか
空き家の固定資産税や都市計画税を支払わなければ、「滞納」となります。納付期限内に支払いを行わないと、期限の翌日から延滞金が加算され、延滞金も含めた金額を支払わなければなりません。
納付期限を過ぎても支払いをしない所有者には、「督促状」が届きます。督促状を受け取っても支払わないと、次に「催告状」が届き、給与や預貯金が差し押さえられます。
災害やその他の理由で納付に間に合わないときは、その旨を自治体の窓口へ相談しなければなりません。金銭的な理由で支払えないケースについても、分納や猶予に関して相談のうえ、減免を受けてください。
特定空き家のリスクや固定資産税
今回は、空き家を相続・売却・所有する際にかる税金を中心に、固定資産税の特例や特定空き家のリスクについて紹介しました。
空き家は適切に維持管理されていれば、居住用の建物・土地として所有し続けられます。しかし、維持管理が滞ると管理不全空き家や特定空き家に指定されるリスクがあるため、早い段階で活用方法を検討するようにしましょう。
空き家の活用をお考えなら、「あき家ZERO」にお任せください。
オーナー様にとって利益のある空き家活用サービスをご提案・提供いたします。空き家の活用にご興味がある方はぜひ一度お問い合わせください。
この記事の監修者
寺澤 正博
高等学校を卒業後、東京トヨペットに3年間勤務。その後、「お客様の気持ちに寄り添った工事をしたい」という思いから独立をし、1989年にサワ建工株式会社を設立。空き家事業だけではなく、新築工事やリフォーム、不動産業など、人が安心して暮らせる「住」を専門に約30年間、東京・埼玉・千葉を中心に地域に根付いたサービスを展開している。東京都の空き家問題に本格的に取り組むべく、2021年から「あき家ZERO」事業を開始。空き家を何とかしたい、活用したいと考えている人へサービスを提供している。