空き家で民泊を始める手順と民泊を始めるメリット・デメリット
「空き家を相続したけど民泊にできる?」「空き家で民泊を始めるメリットとデメリットを教えて欲しい」などと考えていませんか。活用方法を模索している方は多いでしょう。結論から述べると、基本的な要件を満たせば空き家であっても民泊を開業できます。ただし、気をつけたいポイントがないわけではありません。ここでは、空き家で民泊を始めるメリット、デメリット、民泊で求められる設備要件・居住要件、民泊開業の流れなどを解説しています。空き家の扱いでお困りの方は参考にしてください。
目次
日本国内における空き家事情について
日本では空き家が増えているといわれています。具体的に、どのような状況なのでしょうか。日本国内における空家事情を解説します。
空き家の現状
総務省統計局が発表している「平成30年住宅・土地統計調査」によると、居住世帯のある住宅は5,361万6,000戸、居住世帯のない住宅は879万1,000戸です。居住世帯のない住宅のうち「空き家」は848万9,000戸となっています。総住宅数に占める空き家の割合(空き家率)は13.1%です。
空き家数と空家率はどのように推移しているのでしょうか。1998年以降の空き家数と空家率は次のとおりです。
年 | 空き家数 | 空き家率 |
1998年 | 5,764万戸 | 11.5% |
2003年 | 6,593万戸 | 12.2% |
2008年 | 7,568万戸 | 13.1% |
2013年 | 8,196万戸 | 13.5% |
2018年 | 8,489万戸 | 13.6% |
空き家数、空き家率とも、右肩上がりで増加を続けています。1958年以降、減少することなく増加を続けている点もポイントです。日本国内で、なぜ空き家が増えているのでしょうか。
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空き家が増えている理由
空き家は、以下の4種類に分かれます。
種類 | 概要 |
賃貸用住宅 | 賃貸を目的とする空き家 |
売却用住宅 | 売却を目的とする空き家 |
二次的住宅 | 別荘などの目的で利用される空き家 |
その他住宅 | 長期にわたり誰も住んでいない空き家など |
それぞれの空き家数は次のとおりです。
種類 | 2013年 | 2018年 |
賃貸用住宅 | 4,292万戸 | 4,327万戸 |
売却用住宅 | 308万戸 | 293万戸 |
二次的住宅 | 412万戸 | 381万戸 |
その他住宅 | 3,184万戸 | 3,487万戸 |
4種類の中で空き家数が最も多いのは賃貸用住宅です。しかし、2013年から2018年にかけての増加数では、その他住宅が大きく上回ります。空き家の増加には、その他住宅が大きな影響を与えているといえるでしょう。その他住宅は、定期的に利用されないため管理が不十分になりがちです。
空家等対策の推進に関する特別措置法(空家等対策特別措置法)とは
適切に管理されていないその他住宅は、さまざまな社会問題を引き起こします。対策として2015年に施行されたのが「空き家等対策の推進に関する特別措置法」です。この法律で空き家は「建築物又はこれに附属する工作物であって居住その他の使用がなされていないことが常態であるもの及びその敷地」と定義されています。同法のポイントは以下のとおりです。
【ポイント】
- 空き家の実態把握、所有者の特定などに固定資産税などに関する情報を利用できる
- 倒壊する恐れがある住宅などを特定空家に指定できる
- 特定空家等の所有者などに対して助言、勧告、命令、代執行の措置をとれる
空き家の対応方法が明確になったといえるでしょう。
出典:e-GOV法令検索「平成二十六年法律第百二十七号 空家等対策の推進に関する特別措置法」
空家等対策特別措置法の改正について
増え続ける空き家に対応するため、2023年に空家等対策特別措置法の改正が行われました。改正のポイントは次のとおりです。
【ポイント】
- 空き家の活用拡大
- 管理不全の防止
- 特定空家の除却を促進
特定空家への対策強化と特定空家の発生防止が改正の主な目的といえるでしょう。この目的のもと、空家等活用促進区域を創設し用途変更や建て替えなどを促進しています。また、特定空家になる恐れがある空き家を管理不全空家とし、指導・勧告が行えるようになりました。特定空家の除去等において、緊急代執行制度が創設された点も見逃せません。これにより、緊急性が高い場合は命令などを経ず代執行を行えるようになっています。
出典:国土交通省「空家等対策の推進に関する特別措置法の一部を改正する法律」
空き家を民泊として活用するメリット
空き家の活用方法として注目を集めているのが民泊です。民泊には、どのようなメリットがあるのでしょうか。
メリット①収入源となる
最も大きなメリットは、使い道のなかった空き家を収入源に変えられることです。立地などによっては安定した収入を得られるでしょう。
ここで押さえておきたいのが、空き家の維持管理費です。空き家は所有しているだけでさまざまな費用がかかります。代表的な費用としてあげられるのが、毎年、1月1日時点における固定資産の所有者に課される固定資産税です。また、空き家を適切に管理するため、修繕費や庭木剪定費などもかかります。
空き家を民泊として活用すれば、宿泊料からこれらの費用を捻出できる可能性があります。収入額が少額であったとしても、メリットを感じられるはずです。
メリット②初期コストが少ない
初期コストを抑えやすい点も、空き家を民泊に活用するメリットです。新たに民泊を始める場合、通常は物件を購入する必要があります。すでに空き家を所有していれば、その必要はありません。また、民泊は賃貸住宅に比べて、リフォームなどのコストもかかりにくいと考えられています。ターゲットなどによっては、必要最小限のリフォームでも十分に集客できるためです。
空き家を所有している方にとって、民泊は参入しやすいビジネスといえます。初期コストがかかりにくいため、競合民泊に対して価格の優位性を保ちやすい点も魅力です。この点は、撤退時の損失を抑えることにもつながります。空き家と民泊は相性がよいと考えられるでしょう。
メリット③空き家を管理・維持できる
空き家を民泊に活用すると、建物や設備をよい状態に保ちやすくなります。宿泊客を受け入れるため、定期的に清掃を行ったり設備のチェックを行ったりするためです。もちろん、通常の空き家も定期的に清掃などを行えますが、活用予定がないとその間隔は長くなりがちです。面倒になって、お手入れを怠ってしまうケースは少なくありません。
人の出入りがなくなると、空き家は劣化しやすくなります。湿気がこもり、木材腐朽菌などが繁殖しやすくなるためです。木材腐朽菌が繁殖すると、木が腐って建物の強度は低下してしまいます。人の出入りを保ち、住宅のお手入れを促す民泊は、効果的な空き家の管理方法といえるでしょう。
空き家を民泊として活用するデメリット
民泊にはデメリットもあります。空き家を活用するときは、次の点に注意が必要です。
デメリット①利用者によるトラブルが発生するリスクがある
空き家を民泊にすると、宿泊客とトラブルになることがあります。想定される主なトラブルは次のとおりです。
【主なトラブル】
- 近隣住民からうるさいといわれる
- 設備や備品の破損・盗難
- チェックイン・チェックアウトの時間を守らない
- 大量のごみを置いて帰る
一般的な住宅は防音対策を施していないため、宿泊客が騒ぐとその音が近隣住民に伝わってしまいます。大きなトラブルに発展することがあるため注意が必要です。チェックアウト後に、設備や備品の破損、盗難が見つかることも少なくありません。心配な場合は、わかりやすい場所に最低限のルールを掲示しておくなどの対策が必要です。
デメリット②営業日数が制限されている
民泊は、原則として住宅宿泊事業法に基づき運営します。同法に基づく場合、人を宿泊させる日数が180日を超えないものと定められています。宿泊させる日数を届出住宅ごとに算定する点がポイントです。したがって、安定した需要を見込める地域であっても、年間を通して稼働することはできません。
無計画に運営すると、宿泊料金が高騰する繁忙期に稼働できないことも考えられます。計画的な運営が必要です。たとえば、地域のイベントにあわせて稼働時期を決定する、宿泊客の増減にあわせて稼働時期を決定するなどを検討できます。民泊に参入する場合は、地域の情報や周辺エリアの稼働状況を調べておくことが大切です。
出典:minpaku民泊ポータルサイト「住宅宿泊事業法(民泊新法)とは?」
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デメリット③海外からの観光客の利用が多い
「住宅宿泊事業法の届出状況」によると、令和5年12月1日から令和6年1月31日における住宅宿泊事業の宿泊者の国籍は、日本国籍を有する人が135,152人、外国籍を有する人が129,803人です。前年同期と比べて、外国人宿泊者数が155.1%に伸びています。民泊の宿泊者は外国人が多いといえるでしょう。
これ自体をデメリットということはできませんが、外国人宿泊客は文化や言語の違いによるトラブルが発生しやすいと考えられています。たとえば、日本語で記載したルールを理解できず、夜間に大きな声で騒いでしまうなどが考えられます。外国人宿泊客が多い場合は、トラブルを防ぐため多言語でルールを記載するなどの対策が必要になるでしょう。
出典:mipaku 民泊制度ポータルサイト「住宅宿泊事業法の施行状況」
空き家を民泊にする条件
空き家を民泊にしたい場合は、設備要件と居住要件を満たす必要があります。ここからは、両要件について解説します。
①設備条件
民泊の届出を行う住宅は、次の設備を求められます。
【必要な設備】
- 台所
- 浴室
- 洗面設備
- 便所
これらの設備が同一の建物に設けられている必要はありません。同じ敷地内にある建物で、同様に使用する権限があり、各建物の設備が使用できる状態であれば、複数の建物をひとつの住宅として届け出ることができます。一方で、近隣にある公衆浴場などは代替設備として認められません。それぞれの設備は、届出住宅に設けられている必要があります。
各設備はまとまっていても分かれていても問題はありません。それぞれの設備に求められる機能は一般的に必要とされる機能です。たとえば、便所は和式でも洋式でも構いません。
出典:mipaku 民泊制度ポータルサイト「対象となる住宅」
②居住条件
民泊の届出を行う住宅は、次のいずれかに該当する必要があります。
【居住要件】
- 生活の本拠として現に使用されている住宅
- 入居者を募集している住宅
- 所有者などの居住の用に随時供されている住宅
1は、ある人の生活が継続している住宅、2は民泊事業を営んでいる間に売却または賃貸で入居者の募集が行われている住宅、3は生活の中心拠点としては使用されていないものの所有者などが随時居住している住宅(セカンドハウス、別荘など)です。簡単にまとめると、人が居住できる状態の住宅といえるでしょう。ちなみに、将来的に住む予定があれば空き家は「所有者などの居住の用に随時供されている住宅」に該当します。
出典:mipaku 民泊制度ポータルサイト「対象となる住宅」
関連記事:売れない空き家はどう処分するべき?方法やお得になる制度を紹介
民泊に向いているエリア
民泊で収益をだすため重要になるのが立地です。一般的に、民泊に向いているエリアと向いていないエリアがあると考えられています。向いているエリアの代表としてあげられるのが観光地です。観光地から徒歩圏内の物件は一定の需要を見込めるでしょう。
ただし、同じ徒歩圏内であっても、宿泊需要が高いエリアと低いエリアがあります。また、周辺ホテルの宿泊料金相場にも注意が必要です。民泊は、ホテルの宿泊費を節約したい方から選ばれる傾向があります。したがって、ホテルの宿泊料金が著しく安いエリアは需要を見込みにくくなります。観光地の近くは民泊に向いていますが、地域の実情を踏まえて営業することが大切です。
空き家で民泊事業を行う方法と手順
国内で民泊を行う主な方法は次の3つです。
【方法】
- 住宅宿泊事業法の届出を行う
- 国家戦略特別区域法の認定を取得する
- 旅館業法の許可を得る
各法に基づき民泊事業を始める方法を紹介します。
住宅宿泊事業法に基づく
住宅宿泊事業法は、民泊に関する一定のルールを定めた法律です。同法に基づき民泊を始める場合は、次の流れで手続きを進めます。
【手順】
- 設備要件・居住要件の確認
- 住宅の所在地を管轄する都道府県知事などに届出
- 開業準備を開始
- 宿泊予約サイトに登録
- 民泊を開業
住宅宿泊事業法に基づく場合は、住宅の所在地を管轄する都道府県知事などへ届出が必要です。具体的には、住宅宿泊事業届出書類に必要書類を添えて届け出ます。主な必要書類は次のとおりです(個人の場合)。
【必要書類】
- 住宅の登記事項証明書
- 住宅の図面
- 規約の写し(区分所有の建物)
これらのほかにもさまざまな書類が必要になります。
出典:minpaku 民泊制度ポータルサイト「住宅宿泊事業者の届出に必要な情報、手続きについて」
国家戦略特別区域法に基づく
国家戦略特別区域法は、国家戦略特別区域を定めて規制改革などを集中的に進める法律です。同法に基づく旅館業法の特例を特区民泊といいます。国家戦略特別区として指定された地域で取り組まれている点がポイントです。以下の地域が国家戦略特別区に指定されています。
【国家戦略特別区】
- 大田区
- 千葉市
- 新潟市
- 北九州市
- 大阪府
- 大阪市
- 八尾市
- 寝屋川市
同法に基づき民泊を始める手順は次のとおりです。
【手順】
- 市区町村窓口などで相談
- 消防署と調整
- 近隣住民へ説明
- 認定申請
- 書類審査・現地調査
- 認定書交付
- 民泊開業
詳しい手順は自治体の窓口などでご確認ください。
出典:大田区「大田区国家戦略特別区域外国人滞在施設経営事業の申請手続きについて」
旅館業法に基づく
旅館業法に基づき許可を取得し、民泊を開業することもできます。旅館業法では、旅館業を以下の4種類に分類しています。
【種類】
- ホテル営業
- 旅館営業
- 簡易宿所営業
- 下宿営業
民泊は簡易宿所営業で許可を取得するケースが多いでしょう。同法に基づき許可を得ると180日を超えて営業できます。許可取得の一般的な流れは次のとおりです。
【流れ】
- 都道府県などの担当窓口で相談
- 都道府県などの保健所で申請
- 施設検査を実施
- 簡易宿泊営業許可を取得
- 民泊を開業
許可申請では、許可申請書、営業施設の図面に加え、自治体が定める書類が必要になります。詳しくは、都道府県などの担当窓口でご確認ください。
出典:厚生労働省「民泊サービスを始める皆様へ~ 簡易宿所営業の許可取得の手引き~(平成30年6月改訂版)」
関連記事:空き家の運用方法や注意点を紹介
空き家で民泊事業を始める際の注意点
空き家で民泊を始めるときは、以下の点に注意が必要です。
万が一に備えておく
民泊を始めると、さまざまなトラブルが起こりえます。特に注意したいのが火災です。不特定多数の方が利用するうえ、日本に慣れていない外国人宿泊客が多いため、火災のリスクが高くなります。「一般住宅用の火災保険に入っているから大丈夫」と思うかもしれませんが、民泊に利用している住宅は事業用途に分類されるため一般住宅用の火災保険を適用できません。住居として使用していた空き家を活用する場合は注意が必要です。万が一、火災が起こると大きな損失を被る恐れがあります。民泊を始める前に、民泊用の火災保険に加入するなどの対策を検討しましょう。
集客施策を考えておく
民泊を開業したからといって、宿泊予約がすぐに入るわけではありません。知名度が低いうえ、一目で宿泊施設とわからないため、待っているだけでは宿泊客を集められないケースが多いでしょう。開業前に、集客施策も考えておく必要があります。基本の取り組みといえるのが、宿泊予約サイトや民泊マッチングサイトの活用です。多くの観光客などが利用しているため、宿泊客を効率よく集められる可能性があります。予約から支払いまでワンストップで行える点、サービスによっては無料の保険がついている点も魅力です。ニーズに合っているサービスを探すとよいでしょう。
空き家は民泊以外にも活用できる
ここでは、空き家の民泊利用について解説しました。空き家を民泊にする主なメリットは収入源を確保できること、主なデメリットはトラブルが発生しやすくなることです。開業したい場合は、一定の条件を満たしたうえで届出などをする必要があります。その他の活用方法も検討したい方は、オーナー様の負担金ゼロ円でリフォームを実施して、専門家が売却や賃貸運用などをサポートする空き家ZEROの利用を検討してみてはいかがでしょうか。空き家活用のあき家ZEROにお任せください。
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この記事の監修者
寺澤 正博
高等学校を卒業後、東京トヨペットに3年間勤務。その後、「お客様の気持ちに寄り添った工事をしたい」という思いから独立をし、1989年にサワ建工株式会社を設立。空き家事業だけではなく、新築工事やリフォーム、不動産業など、人が安心して暮らせる「住」を専門に約30年間、東京・埼玉・千葉を中心に地域に根付いたサービスを展開している。東京都の空き家問題に本格的に取り組むべく、2021年から「あき家ZERO」事業を開始。空き家を何とかしたい、活用したいと考えている人へサービスを提供している。